遅刻社員への対応で会社が失敗しやすいポイント

「また遅刻か……」
そう思いながらも、忙しさを理由に十分な対応をしないまま放置してしまうケースは少なくありません。

遅刻が続いていても、
「そのうち改善するだろう」
「仕事はできるから厳しく言いにくい」
と考えているうちに状況が悪化し、最終的に大きな労務トラブルへ発展することがあります。

実際、問題社員の相談では、遅刻そのものよりも、会社の対応に問題があったケースも多くありました。

今回は実際の事例をもとに、この記事では、
 ・遅刻社員対応で会社が陥りやすい失敗
 ・トラブルを防ぐための対応手順
 ・記録を残す重要性
を解説します。

遅刻を繰り返す社員への対応について相談を受ける社労士


遅刻自体よりも「会社の対応」が問題になる

遅刻が発生したとき、多くの会社は口頭で注意します。
もちろん、それ自体は間違いではありません。

しかし問題は、その後改善しない状態が続いても、会社が十分な対応を取らないケースです。
例えば、
 ✔ 毎月遅刻している
 ✔ 上司が気付いている
 ✔ 周囲も問題視している
にもかかわらず、
 ・口頭注意だけ
 ・注意した記録がない
 ・注意や指導を行った後の改善状況が分からない
という状態になっていることがあります。

これでは、後になって処分を行おうとしても、なぜ今まで許されていたのかという問題が発生します。


実際にあった遅刻対応のトラブル事例

ある会社では、遅刻を繰り返す営業社員がいました。
管理職も状況を把握していましたが、
 ・口頭での注意だけ
 ・注意の記録はなし
 ・正式な指導はなし
という状態が続いていました。

その社員は口頭注意のあと、しばらくは遅刻しないものの、また遅刻する日が増えてくる・・・
そんな状態を半年以上繰り返していました。
また、管理職も注意しても改善しない状況が面倒になり、口頭注意も減っていきました。
こんな状態が約1年続いた頃、もう許せないと、ついに会社は懲戒処分を行いました。
すると社員から、

「今まで問題だと言われたことがない」

「急に処分されても納得できない」

という反発が起こりました。

もちろん会社には、遅刻を繰り返していたという記録はあります。
しかし、きちんと注意や指導を行っていなかったため、黙認しているような運用になっていました。
そのため、懲戒処分をした時に反発が起こり、対応が難しくなってしまいました。


よくある失敗1:感情で対応してしまう

問題社員対応で最も危険なのは感情的に判断することです。
例えば、
 ✔ 今日だけ特に腹が立った
 ✔ 他のトラブルも重なった
 ✔ 上司との関係が悪化した
など、問題社員以外の事情を含めて、厳しい対応をするケースがあります。

しかし労務管理で重要なのは感情ではなく手順です。
昨日まで何もしていなかったのに、突然重い処分を行うと会社の説明が難しくなります。

以前公開した「問題社員への適切な対応手順と労務トラブルを防ぐポイント」
でも紹介しているとおり、問題社員対応は手順と記録が重要です。


よくある失敗2:指導記録を残していない

遅刻対応では記録が非常に重要です。
しかし、
 ・どの程度注意や指導をしたか
 ・どのような注意や指導を行ったか
 ・注意や指導後はどのような状態になったか
という記録が残っていないケースが多くあります。

こうなると、後から振り返っても、

「何回注意したのか分からない」

「いつ面談したのか分からない」

という状態になります。
こうなると、会社として適切な対応を行っていくことが難しくなります。


よくある失敗3:管理職ごとに対応が違う

会社によっては、

  • A部長は厳しい
  • B部長は何も言わない

という状況があります。

これは社員から見ると、「誰の下につくかで対応が変わる」状態になってしまいます。
このような運用は職場の不公平感につながります。
管理職の判断基準を統一することは、労務管理上とても重要です。

問題社員対応における段階的指導の重要性を説明する社労士


遅刻を繰り返す社員への対応は段階的指導が重要

遅刻する社員には、いきなり厳しい処分を行うのではなく、段階的に対応することが重要です。

例えば、

①事実確認

まずは遅刻について、客観的に事実内容を確認します。
 ・遅刻した日時・時間
 ・遅刻回数や頻度
 ・事前連絡の有無と内容
 ・業務への影響の程度

あわせて本人から事情を聞きます。
 ・交通機関の遅延など、やむを得ない事情なのか
 ・体調不良や家庭の事情があるのか
 ・寝坊や時間管理不足など本人に原因があるのか

感情的に叱責するのではなく、事実の把握を優先することが重要です。

②口頭指導

事実確認の結果を踏まえ、本人に改善を求めます。
 ・遅刻が、業務や他の従業員に与える影響を説明する
 ・本人の勤務時間を再確認する
 ・再発防止策を本人に考えてもらう

場合によっては、
 ・自宅の出発時間を早める
 ・目覚ましを複数設定する
 ・遅刻しそうな場合の連絡ルールを徹底する
などの具体策を、本人と考えることもあります。

一度の遅刻で直ちに厳しい処分を行うのではなく、まずは改善の機会を与えることが大切です。

③面談記録作成

改善指導の内容を記録します。
口頭指導も面談指導も、その内容を残します。

 ✔ 面談日時
 ✔ 遅刻の状況
 ✔ 本人の説明内容
 ✔ 指導内容
 ✔ 本人が約束した改善策

記録はメモ程度で構いません。
重要なことは、どのような指導を行ったか、を分かるようにすることです。

記録を残すことで、その後の改善状況などを踏まえて、必要な会社の対応策が検討できます。

④文書指導

指導後も改善が見られない場合は、注意書や指導書などの文書による指導を検討します。

文書には、
 ・遅刻が繰り返されている事実
 ・これまでの指導経過
 ・改善を求める内容
 ・改善が見られない場合の対応
などを明記します。

文書で通知することで、改めて本人に問題意識を持ってもらいます。
また文書で通知することで、指導の事実を明確に残すことができます。

⑤就業規則に基づく対応

何度指導しても改善が見られない場合は、就業規則に基づいて懲戒処分などを検討します。

例えば、
 ✔ 始末書の提出
 ✔ 戒告・けん責などの懲戒処分
 ✔ 人事評価への反映
などが考えられます。

なお、懲戒処分を行う場合は、就業規則などに根拠があることが必要です。
また、懲戒処分までの指導や本人の弁明機会なども、就業規則の手順で行うことが重要です。


遅刻の背景に別の問題が隠れていることもある

実務では、単なる勤務態度の問題ではないケースもあります。
例えば、

  • 家庭の事情
  • 健康問題
  • メンタル不調
  • 業務負担の増加

などが原因になっている場合があります。
そのため、遅刻した事実だけを見るのではなく、背景にも目を向けます。

「なぜ遅刻が続いているのか」

遅刻の背景を確認することにより、考慮すべき事情も見えてきます。
例示のような原因がある場合には、事情を考慮した対応を検討する必要があります。

遅刻が続くからといって、すべてを勤務態度の問題と決めつけることはできません。
本人も改善したいと思いながら、体調や家庭事情などで苦しんでいるケースもあるからです。


社労士として感じること

遅刻対応の相談を受けると、
「もっと早く対応しておけば良かったですね」
というケースが少なくありません。

問題社員への対応は、問題が小さいうちに行う方が簡単で、改善もしやすい傾向があります。

しかし実際には、
 ・忙しくて対応する時間がない
 ・人手不足で手が回らない
 ・本人との関係が悪くなるのを避けたい
 ・職場で波風を立てたくない
といった理由から、対応が後回しになることがあります。

ただ、遅刻の問題を放置すると、影響を受けるのは本人だけではありません。
 ・遅刻社員の業務のフォローによる負担
 ・「なぜあの人は遅刻してもいいのか」という不公平感
 ・「私だけ・・・」「自分だけ・・・」という不満
他の従業員にこのような感情が生まれ、職場のモチベーション低下につながることもあります。

最初は一人の遅刻の問題だったことが、
 ✔ 職場のルールが守られなくなる
 ✔ 周囲従業員の不満が蓄積する
 ✔ 管理職への信頼が低下する
 ✔ 職場のモチベーションが低下する
といった組織全体の問題へ発展してしまうケースも少なくありません。

そのため、私は問題社員対応において、
「どのような処分を行うか」よりも、 「どのような記録を残し、どのような指導を積み重ねてきたか」
の方が重要だと考えています。

早い段階から事実確認と指導を行い、その経過を記録しておくことが、改善への可能性を高めます。
万が一、改善しなかった場合でも、会社として合理的で公平な対応を取りやすくなります。


まず自社で確認してみたいポイント

次の項目に当てはまる場合は注意が必要です。

□ 遅刻が多い社員がいる

□ 従業員に注意した記録が残っていない

□ 管理職ごとに遅刻に対する対応が違う

□ 就業規則などで遅刻の基準が曖昧

□ 面談記録を作成していない

□ 口頭注意だけで終わっている

□ 問題が起きてから対応を考えている

一つでも当てはまる場合は、現在の運用方法を見直す余地があるかもしれません。


まとめ

遅刻社員への対応で会社が失敗しやすいのは、遅刻したときの対応の遅れや方法です。

特に、
 ・口頭注意だけで終わっている
 ・指導内容の記録が残っていない
 ・管理職ごとに対応が異なる
 ・「今回は仕方ない」と対応を先送りしている
といった状況は、後のトラブルにつながる可能性があります。

また、遅刻の問題を放置すると、本人だけの問題では済まなくなることもあります。

遅刻した社員の業務を周囲がフォローする状態が続けば、他の社員の負担が増えます。
 「なぜあの人だけ注意されないのか」
 「ルールを守っている人が損をしている」
といった不公平感は、職場のモチベーションや会社への信頼低下につながります。

そのため、遅刻対応では感情的な判断や場当たり的な対応ではなく、
事実確認 → 指導 → 記録 → 文書指導 → 就業規則に基づく対応
と段階的に積み重ねることが重要です。

問題社員対応は、「処分するため」に行うものではありません。
本人の改善を目的として、同時に職場の秩序や公平性を守るために行うものです。

問題が深刻化してから慌てて対応するのではなく、
早い段階から対応を”積み重ねる”ことが、社員や職場を守り、結果として会社を守ることにつながります。


問題社員対応は、「処分すること」が目的ではありません。
会社のルールを適切に運用し、職場秩序を維持することが本来の目的です。
遅刻や勤務態度の問題が発生しているときは、まず現在の運用方法や記録方法の確認をしてみてはいかがでしょうか。


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■あわせて読みたい

<参考リンク>
・兵庫県社会保険労務士会(公式サイト)
 https://www.sr-hyogo.gr.jp/

・全国社会保険労務士会連合会(公式サイト)
 https://www.shakaihokenroumushi.jp/

・厚生労働省 働き方改革特設サイト
 https://hatarakikatakaikaku.mhlw.go.jp/