“そろそろ復職できそう”だけで判断していませんか? ― メンタル不調者の復職対応で企業が押さえるべき重要ポイント
メンタル不調による休職者の復職対応に悩む企業は少なくありません。
「本人は復職したいと言っている」「主治医も問題ないと言っているらしい」
――しかし、この段階で復職を認めてしまうと、後々大きなトラブルに発展するケースがあります。
今回は、実際にあった相談事例をもとに、復職判断で必ず押さえておきたい重要ポイントを解説します。

復職の判断は「慎重すぎるくらい」でちょうどいい
ある企業から、メンタル不調で休職している社員の復職について相談を受けた時のことです。
内容は、本人から「復職したい」という申出があったため、会社として復職を検討している、というものでした。
そこで、まず確認したのが次の点です。
「主治医の意見は確認しましたか?」
すると企業担当者からは、
「本人から “医者はそろそろ復職しても大丈夫だろうと言っている” と聞きました」
との回答でした。
もちろん、本人が嘘をついているとは限りません。
しかし、復職対応では“本人から聞いた話だけ”で判断することには、大きなリスクがあります。
そこで、企業には次の2つをアドバイスしました。

① 医師の意見は“書面”で確認する
まず重要なのは、
医師の意見は、必ず書面で確認することです。
本人経由の口頭説明だけでは、会社として十分な確認をしたとは言えません。
なぜなら、復職を希望している本人は、
- 「早く復職したい」
- 「職場に戻りたい」
- 「収入を回復したい」
という思いを持っているケースが多いためです。
その結果、
- 医師の説明を本人に都合よく解釈している
- 一部だけを伝えている
- 本来は条件付きなのに省略されている
ということも、現実には起こり得ます。
特に復職を希望している状態では、本人は「働ける状態である」と思いたい心理が働くため、
医師の発言が正確に伝わっていないケースも少なくありません。
会社には従業員に対する安全配慮義務があります。
そのため、
「本人が大丈夫と言っていたから」
ではなく、
「医師が、どのような条件で就労可能と判断しているのか」
を、客観的な書面で確認することが重要です。
② “仕事内容・労働条件”を書面化して医師に確認してもらう
そして、もう一つ非常に重要なのがここです。
単に「復職可能ですか?」と確認するのではなく、
本人の仕事内容や労働条件を整理した書面を用意し、その内容で就労可能かを医師に判断してもらうこと
が大切です。
これは、多くの企業が見落としやすいポイントです。
医師は「病気」は分かっても、「仕事の実態」までは分からない
主治医は、当然ながら病気の専門家です。
しかし一方で、
- 実際にどんな業務をしているのか
- どの程度の精神的負荷があるのか
- どんな責任を負っているのか
- 労働時間や休日体制はどうか
までは、詳しく把握していないケースも少なくありません。
例えば、同じ「営業職」でも、
個人向け営業(BtoC)
- クレーム対応が多い
- 感情対応が発生しやすい
- ノルマプレッシャーが強い
ケースがあります。
一方で、
法人営業(BtoB)
- 長期的な関係構築が中心
- 提案資料作成や交渉が多い
- 社外調整の負荷が高い
など、求められる能力や負荷は大きく異なります。
さらに、管理職であれば、
- 部下マネジメント
- トラブル対応
- クレームの責任者対応
- 長時間労働の発生
なども加わります。
つまり、
「営業職だから復職可能」
では判断できないのです。
会社が見るべきは「働けるか」ではなく「労働条件通り勤務できるか」

ここで重要なのは、会社の視点です。
会社は、
「病気が治ったか」
を判断する立場ではありません。
病気の判断は、医師しかできません。
会社が確認すべきなのは、
「実際の労働条件で安全に勤務できる状態か」
という点です。
例えば、
- フルタイム勤務が可能か
- 残業対応は可能か
- 通勤負荷に耐えられるか
- 対人ストレスの高い業務は可能か
- 判断業務や管理業務は可能か
など、実務レベルで確認する必要があります。
この視点が抜けると、
- 復職後すぐ再休職
- 業務トラブル
- メンタル悪化
- 周囲への負担増加
- 労務トラブル
につながる可能性があります。
制度やルールがあっても、実際の運用と一致していなければトラブルにつながります。
規程と運用のズレについては、「規程と現場がズレていると、何が起こるのか」でも紹介しています。
復職対応は「復帰させること」が目的ではない
企業によっては、
- 人手不足だから
- 本人が希望しているから
- とりあえず戻してみよう
という判断をしてしまうケースもあります。
しかし、復職対応で本当に重要なのは、
“無理なく継続して働ける状態か”を確認することです。
復職時の判断を曖昧にすると、その後の対応の方がはるかに大きな負担になります。
場合によっては、
- 長期化
- 配置トラブル
- 安全配慮義務違反
- 労災問題
- 損害賠償リスク
に発展することもあります。
だからこそ、復職時の確認は非常に重要なのです。
復職対応でも、判断基準や運用ルールを見える化しておくことが重要です。
「労務の”見える化”をしない会社が陥る3つのトラブルと対策」も参考になります。
復職対応に限らず、労務トラブルは問題が大きくなってから相談されるケースが少なくありません。
社労士に相談するタイミングについては、「社労士に相談するタイミングはいつ?中小企業の5つのサイン」も参考になります。
まとめ|復職対応で企業が押さえるべきポイント
メンタル不調者の復職対応では、次の2点が特に重要です。
① 医師の意見は必ず書面で確認する
本人からの口頭説明だけで判断しない。
② 仕事内容・労働条件を書面化し、その条件で勤務可能かを確認する
「病状」だけではなく、「実際の勤務」が可能かを確認する。
復職対応は、本人への配慮だけではなく、会社としてのリスク管理の視点も欠かせません。
制度や手続きだけでなく、
- 具体的な運用方法
- 判断基準
- 現場対応
まで整理しておくことが重要です。
復職対応は、一つひとつの判断が従業員本人だけでなく、職場全体にも影響します。
・復職判断の基準が曖昧
・主治医との連携方法が分からない
・復職後の運用ルールが整っていない
という場合は、一度現状を整理してみることをおすすめします。
制度だけでなく運用まで整理することで、本人も会社も安心して復職を進めやすくなります。
まずは課題を“見える化”しませんか?
伴走支援は、現状把握から始まります。
初回「見える化セッション」で、課題と優先順位を明確にします。
■あわせて読みたい
<参考リンク>
・兵庫県社会保険労務士会(公式サイト)
https://www.sr-hyogo.gr.jp/
・全国社会保険労務士会連合会(公式サイト)
https://www.shakaihokenroumushi.jp/
・厚生労働省 働き方改革特設サイト
https://hatarakikatakaikaku.mhlw.go.jp/

